「白い光の景色」

憧れていた世界に

足を踏み入れたわたしは

日々をこなすだけで

精いっぱいだった

目にするもの

すべてが初めてだった

説明はない

流れだけがある

その中で

自分の動きを見つけて

入っていく

それが

当たり前だった

動くしかなかった

見て

感じて

覚えていくしかなかった

最初のうちは

よく𠮟られていた

大勢の前で

怒鳴られたこともあった

でも

不思議と怖くなかった

怒りには

過敏だったはずなのに

「なぜ」

叱られているのかが

明確だったから

自分の未熟さを突かれて

痛くはあったけど

理不尽さや

怯えは

まったくなかった

圧はあった

威圧ではなかった

甘くはない

でも

厳しいだけでもなかった

その奥には

優しさがあった

「わたし自身」を

見てくれている感覚があった

「使ってもらえる人間になりたい」

どんな言葉も

素直に受け取ることができた

「怒られること」と

「叱られること」の違いを

体感した

毎回

練習場所や

顔を合わせる人が

変わっていく

新鮮だけれど

緊張は

続いていた

実際に

現場に入って感じたのは

舞台の世界で生きるには

コミュニケーション能力が

必要だった

とくに

支える側の人間にとって

要になる能力だった

人と人をつなぐ役目

決まった型が

あるようで

ない

場の空気を読んで

先読みして

動く

常にアンテナを

張っていた

大道具

照明

音響

衣装

演者

オーケストラ

それぞれの部門をつなげて

ひとつの舞台を

つくり上げる

合図なんてないのに

誰かの動きを見て

自分も動く

そうやって

互いの存在を感じていた

阿吽の呼吸の空間が

できていた

自分の仕事に情熱を持ち

「自分の人生」を

生きている

プロの人たちを

目の前にして

その生き様に

胸が震えていた

思い描いていたよりも

ずっと現実的で

シビアな世界だった

夢のような

華やかな世界を

想像していたわけじゃない

綺麗ごとじゃ

生き抜けない世界だと

分かっていた

根性はある方だと

思っていたけど

それでも

多くの人の中で生きることは

想像以上に

過酷だった

一歩を踏み出すことが

決まってから

わたしの中で

カウントダウンが始まった

嬉しいはずなのに

焦る気持ちが

強まっていった

自分が望んでいた環境に

入るチャンスが

やってきた

ここからは

自分の熱をぶつけて

走っていけばいい

ここに来れば

不安も

迷いも

消えていくはず

そう信じてきた

でも

わたしから

不安が消えることは

なかった

まるで

何かを確認するかのように

ひとつひとつを

こなしていた

「正しいか

 正しくないか」

自分の居場所は

本当にここで

合っているのか

当時は

言葉には

できていなかったけれど

そう感じていた

その背後から

「もし違ったら、どうする?」

この気持ちが

顔を出し始めていた

ここが

求めていた世界じゃなかったら

自分がどうなってしまうのか

想像もつかない

怖くて

想像することも

できない

最後の望みだった

たくさん葛藤して

悩んで

迷って

ようやく見つけた光

絶対この世界だと

確信していた

それなのに

同時に

疑う自分も

いた

この矛盾が

ずっとあった

認めると

「何もない自分」に

なってしまうから

自分の中の違和感に

触れないようにしていた

事実を受け入れられる自分が

まだ

いなかった

でも

想像じゃなく

現実で

本物と

対面してしまった

その時が

来ている

もう

逃げられない

自分を

誤魔化し続けることは

できない

この苦しみから

解放される日は

来ないのだろうか

ゴールが見えたと思ったのに

目の前が

暗くなり始めている

そんなとき

白い光を見た

舞台袖から

ライトを浴びて

たくさんの拍手の中

笑顔で応えている

演者の姿を見て

言葉にできない

感情が

あった

「どうしてわたしは

 ここにいるんだろう」

心から

羨ましく思った

急に

足元が不安定になる

これは

わたしの好きな世界の人たちに

感じていた

「嫉妬」にも

似ているけれど

少し違った

あの時は

行きたくても

行けない

悔しさがあった

今回は

そうじゃない

自分の求める場所が

間違っていた

全部を通ったから

見えてきた

事実

きっとそれだった

そのときのわたしには

まだ

見えていなかった

ただ

「わたしも

 あの光を浴びたい」

胸が締め付けられた

わたしの場所は

ここじゃない

本来のわたしが

行くべき場所

あのときのわたしは

あの光の中に

それを

見ていた

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