「わたしの原点」

相手の領域の話がきっかけで

これまでとは違う

関わり方になった

でも

わたしたちを

その奥へと深めてくれたのは

音楽だった

相手は

音楽が好きな人

もちろん

わたしも

ただ

ジャンルは違う

その時のわたしは

本気で

ピアノと向き合うと決め

クラシック一色だった

だから周りから見ると

共通点なんて

見当たらないかもしれない

でもこれが

わたしの転機となった

大学に入ってすぐ

クラシック音楽を好きになれないことに

悩んでいた

授業の曲を

勉強しないといけないのに

ロックやブルースばかり

聴いていた

邦楽よりも

洋楽に惹かれていた

英語は

意味ではなく

音として流れていた

世界の民族音楽にも

なぜか

心が動いた

友人が

「クラシックは面白いよ」

そう言っているのを聞いて

「やっぱり

 わたしが変なのかな」

音楽を学びたくて

来たはずなのに

クラシック音楽に

夢中になれない自分が

間違っている感覚になった

自分の本心が

見えない

そんなとき

わたしはまた

舞台の世界と再会した

高校三年間

離れていた世界

初めて出会ったときと同じ

一気にのめり込んだ

でも

全く同じでもなかった

あの頃に植えられた種が

小さな芽を出した

ファンの一人として

その人と

その世界を

見ていた

違和感があった

何とも言えない

焦燥感のようなもの

そこにいれば

「憧れの人」と

近い距離で接することができる

でも

その人と自分の間にある

「線」が

はっきりと見える

「憧れ?」

疑問が生まれた

この頃

ある人と

手紙をやり取りをしていた

これから

表で活躍する人

年齢も近く

言葉を交わしていた

ところが

大学を卒業したあたりから

自分の気持ちに

変化が出ていた

心から

応援している

この気持ちに

嘘はない

けれど

その人が光を浴びて

輝いている姿を見ると

わたしの心が

激しく揺れ

痛み出す

当時のわたしは

その苦しさから逃げるように

手紙をやめてしまった

その人は

変わらず最後まで

わたしに送り続けてくれた

わたしも親になり

状況が変わった

長い空白期間はあったけど

最後はまた

その人に手紙を送っていた

その人の「光」が

眩しくて

まるで

自分の影を映し出されているようだった

ようやく分かった

その人たちを

応援する場所ではなく

同じ場所に立ちたかった

でも

いまは

行けない

年齢に差はないのに

その人たちは

自分の光を見つけている

わたしにも

同じものがある

それなのに

まだ

ここにいる

近くに寄ることで

その差が

はっきり見えた

その人たちと自分の

立ち位置の違い

その事実を

突きつけられるのが

苦しかった

「憧れ」なんかじゃない

わたしは

その人たちに

「嫉妬」をしていた

嫉妬の対象が

わたしらしくて

少し笑ってしまう

「わたしも

 表現する世界にいきたい」

これが

わたしの中に顔を出していた

芽だった

舞台の世界を

創る側になる

すぐ辿り着いた

どうして

ロックの音が

こんなにも

心地よかったのか

それも全部

わたしの内側だった

当時は

クラシック音楽の世界の

「こうあるべき」に

縛られていた

本当は

そんなものは

存在しないのだけれど

自分で勝手に

作り上げていた

白か黒かの

二択だから

ここに来たのなら

クラシックだけを学ぶべき

ひとつのことに

本気になっているのなら

他に気は向かないはず

この逆にあるわたしは

中途半端で

できていない人間

そう感じて

焦っていた

内側には

強い衝動がある

それは

間違いない

でも外に出す手段が

まだない

それを

ロックやブルースの音が

代わりに

形にしてくれていた

わたしの中の

反骨精神が

外に出たがっていた

窮屈さを

感じ始めていた

「枠」を

壊したい衝動に

駆られる

もっと

広い世界を見たい

「わたしは

 舞台の演出家を目指す」

熱が

初めて

姿をあらわした

相手の好きな音楽と

服装の好みが

大学生のわたしの感覚に

重なっていた

自分の

「好き」の輪郭が

見え始めた

わたしを生きるための扉

その前にいた

あの頃の自分

あれが

わたしの原点だった

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