「情熱の線」

相手と話をするたびに

わたしの中で

ひとつずつ

ピースがはまっていった

とくに音楽の話は

わたしの深い部分を

揺らしてきた

わたしが興味をもつものと

相手のもっているものは

完全には一致しない

けれど

微妙に触れあい

わずかに重なっている

その絶妙さが

さらにわたしの好奇心を

刺激した

「見え方は違うけど

 本質は同じ」

「同じもの」を

違う側面から見ている

だから表現方法が違う

そう感じて

面白いと思った

相手への興味は

ますます深まっていった

そのときのわたしは

「なにかを書く」ことには

行き着いていたけれど

それ以外は

まだ見えていなかった

ただ

書くことから始まり

ピアノや世界史

語学、絵画へと

過去の自分が触れていたものが

わたしの中にひとつずつ現れ

また手を伸ばせるようになっていた

でもむかしのような

純粋なワクワク感とは

少し違っていた

一度は蓋をしたものたち

その背後には

苦い記憶がある

重たさがあった

思い出したからと

手放しに喜んで

軽はずみに手を伸ばせない

「それは過去のもの」

触れるのを

やめていた

そんなわたしの意に反して

相手の言葉は

優しく、

けれど確かに刺激してくる

ほんのわずかの会話なのに

まるで凝縮されているかのように

言葉のひとつひとつに

密度があった

一瞬で

わたしの一番深い部分に

触れてくる

自分の頭の中に

たくさんの線が描き出される

張りめぐらされた線の中から

「つながり」を探していた

一本の糸を手繰り寄せるように

思考を巡らせていた

ブルース?

ロック?

音楽の原点を辿る

共通するものは何だろう

自分の中にも

似たものがある

「何かつながりそうな気がする」

音楽の原点という言葉に

むかしの記憶がよみがえった

苦い思い出

記憶を思い起こそうとすると

鼓動が速くなる

どうしていま

それを思い出したのか

それこそ

わたしの中で

完全に「ない」もの

二度とすることはないと

封印したもの

でも

自分の中で

確実に揺れている

相手に教えてもらった曲を

わたしはほぼ全部

聴いていた

自分の好奇心が

ぴたりとはまった時にだけ出てくる

一点集中する自分が

完全に姿を現していた

その曲自体も

わたしの中の何かに

反応していた

ピアノを再開したわたしが

のめりこんだきっかけは

「バッハ」の音楽だった

大人になって

バッハの素晴らしさを知った

面白くて

夢中で聴いて

曲を分析していた

そのバッハの音楽が

相手の教えてくれた曲の中に

散りばめられていることに

気づいた

ロックの中にクラシックがある

あらためてバッハの凄さを感じた

「つながり」を

見つけたことに高揚した

誰かに話したくて

仕方ない

そしてある曲を耳にしたとき

空気が変わった

「映像が見える」

ロックだけれど

弦楽器が使われていて

わたしには

ベートーヴェンの交響曲のように

聴こえた

「何だろう

 クラシックのような

 重厚な柱が見える」

歌い手の声の質と

使っている楽器

旋律と低音の線が

溶け合うように重なり

いくつもの層を作っていた

オペラを見ているような

そんな感覚になった

「音にストーリーがある」

自分の中で

何かが動き出しているのが

はっきり分かった

うずうずと

外に出たがっている

この感覚を

わたしは知っている

「気になる」

「知りたい」

わたしの好奇心が

そう言っていた

じんわりと

自分の中に

何かが滲み出す

目に見えないのに

目に見えている

音だけなのに

映像がある

物語がある

目を閉じると

色が

形が

感触が

鮮やかに映し出される

「感じさせる音」

元々わたしは

言葉を「音」として

聴く癖がある

だから

言葉の意味を知るのは

いつも聴き込んだ後になる

洋楽だと

言葉は完全に

「音」として聴いていた

これは

恋の音楽なのか

悲恋なのか

それとも孤独や夢を描いているのか

想像が止まらない

自分に「見えている」

この感覚を

「何か」で表現したい

その欲求が

湧きあがってきていた

言葉?

絵?

なにがいちばん

この感覚に近いだろう

いても立っても

いられなくなっていた

もうすぐ

「答え」が出そうだった

なんだろう?

もう、そこにある

見えている

でも白いモヤで

輪郭しか分からない

思い出せ

何かをわたしは

忘れている

この感覚は初めてじゃない

知っているものだ

わたしがずっと

探し続けてきたもの

手に入れたと思って

手放してしまったもの

この先に

その求めていたものの正体が

あるんじゃないか

「勘違い」でも

「幻想」でもなかったのかもしれない

このときのわたしは

触れることにためらっていた

あの「怖さ」を

忘れていた

もう止められなかった

見えかかっている

何だ?

集中して

思考をめぐらせる

少しずつ

霧が晴れていく

すると

「それ」が姿をあらわした

「もしかして、総合芸術?」

わたしはそれと

また再会した

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