「好きという衝動」

相手と

初めて会った

あの時から

わたしの

止まっていた時計の針は

動き出した

「わたしは

 何のために生きているのか」

「自分の生き方とは何か」

一気にここに

辿り着いたわけじゃない

深く潜るには

外側にできた

防御の膜が厚かった

その膜を

一枚ずつ

剝いでいくように

数年かけて

少しずつ

奥へと進んでいった

相手と接触する頃には

頭で考えるだけの時期は

終わっていた

そのときには

どんな形でつながるのか

見えなかった

「これが必要になる気がする」

そう思い

二年前から

書き始めていた

自分の直感に従って

気づけば

書いていた

「書くこと」も

体調を崩してから

遠のいていた

わたしから

書くことは外せない

むかしの自分が

戻ってきた

また

文章を書き始めたことを

一番喜んでくれたのは

母だった

音楽でも

絵でもなく

「文章を書くこと」

これが

わたしらしい姿だったのかもしれない

長い間

触れてこなかったから

最初は

構成から

学び直した

「自由に」ではなく

「求められたもの」を書く

ここから

はじまった

「型」に当てはめていく

「枠」がある方が

やりやすかった

何かを書く自分に

慣れてくると

過去の自分が

はっきり顔を出し始めた

一度

すべてに蓋をして

奥深くにしまい込んだものたち

やはり

捨てていなかった

見なかっただけで

ずっと

わたしの中には

残っていた

存在たちが

ようやく

時が来たとばかりに

順番に出てくる

良い記憶がない

中心には

強い衝動がある

その周りを

苦い経験や

未知への恐れが

分厚く覆っている

それでも

中心にある存在の輝きは

厚い壁を突き抜けて

わたしの心を

揺らしてくる

挫折

逃避

恐れ

未熟さ

焦る気持ちを抑え

時間をかけて

ゆっくり

掘り下げていった

苦くて

恥ずかしい記憶たち

当時の感覚が

鮮明に蘇る

そこに触れられなかった

ふと思った

「わたしは何に

 後ろめたさを感じているのだろう」

自分が怖いと思っているものは

何なのか

すぐに

答えが出なかった

「わたしは

 どうして逃げたのかな?」

疑問が

湧いてきた

思い込んでいただけで

本当は

何か違ったのかもしれない

ほんの少し

そんな考えが

出てきていた

何かを書いて表現する

もう

自分の中で

固まっていた

ただ

「何を」書くのかが

見つからない

ピアノ

音楽

美術

歴史

これらが

ぐるぐる頭をめぐる

自分の勉強のために

自分の視点から見た

音楽史を書く

一旦

ここに着地した

なかなか進まない

自分でも

これじゃないことは

分かっていた

見つからない

立ち止まっているだけでは

何も変わらない

方向性は合っている

まだ

はまっていない

「わたしは

 何を創りたいのか」

自分の中に

強い衝動がある

「何かを書きたい」

振り出しに戻り

強まっていった

自分の中で増え続ける熱を

どんな形でもいい

外に出したかった

この気持ちが高まり始めた頃

相手とも

表面ではない話が

できるようになっていった

ある時相手が

自分の領域のことについて

「好きだからやっている」

この言葉で

何かが変わった

「好き?」

戸惑う自分

強く揺れ動く

自分の中に

浮かび上がるもの

ここに来るまでに

それに対して

「好き」と

認められなかった自分に

気づいていた

理解したつもりでいた

「体感」が

まだだった

「好きって何だろう」

「わたしの好きは、何?」

書くことは好きだけれど

少し違う

書くことは

わたしにとって

当たり前にあるもの

比較対象にならない

わたしの「核」

「好き」は

もっと

きらめきのある存在

ずっと恋焦がれて

自信が持てず

素直になれなかった

ずっと

自分の中にあり続けていたのに

見えていたのに

見えていなかった

この感覚は

恋そのもの

ようやく

気づけた

相手のキラキラした顔を見て

思った

「わたしも

 あんな風になりたい」

好きなものを

素直に好きと言える

自分でいたい

またひとつ

自分に戻っていく

「わたしは

 ピアノが大好き」

もう

手放さない

これからは

守っていく

そう決意した

瞬間だった

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