娘との出会いは
わたしを大きく変えた
出産した直後
わたしはある変化に気づいた
「頭に何も流れていない」
娘が生まれてくる直前まで
ずっとあったはずなのに
いまは何もない
いつの間に消えたのだろう
分からないけれど
自分の中に
「空白」ができていた
もしかしたら
産後だからかもしれない
そう思って
様子をみることにした
ところが
何日経っても
変わらなかった
わたしの頭に
妄想が流れなくなった
医者にも不思議がられた
でも確かに
なくなっていた
それは嘘じゃない
わたしは
娘を抱きしめた
声にならなかった
心の中で
何度も何度も
「ありがとう」と伝えた
娘の誕生を機に
わたしは
3年以上
苦しめられてきた
あの妄想から
解放された
妄想がなくなると
夫への嫉妬もなくなっていた
だから
自分の家へ戻るのが
嫌で仕方なかった
夫への執着も消え去った
夫がいないと不安だったのに
今度は
夫しかいないことに
不安を感じ始めた
また夫が
長期で家を空けることになった
わたしは娘を連れて
実家へ戻ってきた
前回とは
心境がまるで違う
強迫観念の症状はなくなったけれど
人の視線や
人と接触することは
まだ怖かった
それでも明るい光が
心に差し込んでいた
以前から
やりたいと思っていた
着付けを習い始めた
久しぶりに
何かを学ぶ感覚を味わった
綺麗なものに触れ
知らないことを学び
自分の中で
満たされていく感覚があった
夫が戻るのと一緒に
わたしも戻った
わたしの中で
ある考えが浮かんでいた
娘と二人の時間は
心から「幸せ」だと感じていた
でも
夫が家を空けるたび
不安に襲われていた
いまは一人じゃないけれど
緊張が走ることに
変わりはない
もう何年もこの状態で
いい加減
「安心」できる場所に
身を置きたくなった
それは
夫のそばではなかった
だから
二人目の妊娠が分かったら
実家へ戻らせてほしいと
お願いをした
心をゆっくり休めたいと伝えると
夫は快く了承した
その話のあと
妊娠が分かり
夫の元を離れることになった
これが
わたしたちが
「平穏に」過ごせていた
最後の時間だった
息子の出産のとき
わたしは夫に対して
完全に心を閉ざした
これまでも
開いてはいなかったけれど
まだ
わたしは歩み寄っていた
それが
完全になくなった
その時には
理由がわからなかった
でも「怒り」がおさまらない
どれだけ周りの言葉を聞いても
自分を納得させようとしても
無理だった
周りが言うように
これは「些細な」
「よくある」話なのか
許せないわたしは
器の小さい人間なのか
また苦しんだ
それでも
もう見逃すことができないくらい
怒りが大きかった
夫は
触れてはいけない部分に
触れてしまった
自分の尊厳を守るために
これ以上は限界だと悟り
自分で線を引いた瞬間だった
静かに
わたしの戦いが始まった
発達がゆっくりな
二人の子を
ひとりで育てるのは
簡単ではなかった
同居とはいえ
両親はまだ働いていた
それに
親はわたしなのだから
頼りきることはできなかった
子どもの成長のことを考えると
不安で押しつぶされそうだった
でも夫に言っても
変わらない
ひとりで調べて
足を運んで
必要なものを得ていった
自分の育て方が合っているのか
分からなくて
本当に怖かった
自分の選択が
子どもたちの未来を変えてしまう
プレッシャーが
強くのしかかっていた
わたしはまた
孤独を感じていた
体力的にも
精神的にも
限界のところで踏ん張っていた
あるときから
「自分のこと」を考えるのを
やめることにした
自分のやりたいこと
楽しいこと
未来のこと
そういうものを思い描くと
それができない現実との間で
苦しむことになった
だから
封印することにした
「自分の時間は
子どものために使う」
そうしないと
子どもを育てていけない
生きていけなかった
夫に話をする余裕もなかった
話をしても
表面的なことしか返ってこない
夫に合わせて
歩み寄りながら話をする
気力もなかった
「母」として生きるのに精いっぱいで
「妻」としてのわたしは
もう存在していなかった
夫に対する不信感は
募り続けた
わたしは
笑うことができなくなっていた
話をするのも難しかった
接触しないでいるのが
いちばん安全
そう思っていたけれど
状況が変わった
夫の異動が決まり
こちらへ来ることになった
前はそれを願っていた
けれど実際は
絶望に近かった
「また
わたしの安心がなくなってしまう」
6年ぶりに
同居することになった
以前とは
何もかもが違う
空気が凍る
わたしは過呼吸になり
緊張で眠れなかった
顔を合わせないために
急いで家事を終わらせた
夫から逃げるように
毎日を送っていた
わたしは夫に怯えていた
それは
どうしようもない事実だった
これまであった
歩み寄る気持ちがなくなると
残ったのは
恐怖心だった
また
いつどんな風に
傷つけられるのか
夫を前にすると
身体が硬直していた
息苦しくて
窒息しそうだった
病の苦しさとは
また違う苦しさだった
わたしは
一生こうやって
苦しみながら生きていくのだろうか
子どものため
家族のためと
枠の中に押し込められて
自分を押し殺して生きる
これが
わたしの運命なのか
前世で何か
悪いことでもしたのだろうか
呼吸ができる場所を求めて
ひと息ついても
すぐにまた侵されてしまう
逃げられない
どうやったら
自分の周りにある
この絡まった鎖を
断ち切ることができるのか
いつになったら
わたしは自由になれるのだろう
わたしは
こんなところで終わりたくない
もっと高く飛んで
もっと輝きたい
何かから逃げて
何かを見上げて
生きるのはごめんだ
わたしが描いてきた自分は
こんな姿じゃない
すべてを壊してしまいたい
そうすれば
一からやり直せるんじゃないか
終わりが見えない
光も見えない
またわたしは
暗闇の中にいた
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わたしの中に
再び
小さな熱が
姿を見せ始めた
ここから
わたしの回帰の道は
始まった

