自分を差し出す生き方に
ピリオドを打つ
そう決めたわたしは
自分の行動のひとつひとつを
確認するようになった
意識していないと
気づけない
すぐ元の自分に戻ってしまう
すると相手との関わり方にも
変化が出始めた
これまでずっと
わたしから声をかけていた
あの時間は
わたしにとって
本当に大切な時間で
心から守りたいと思っていた
でもこのままでは
きっと続かない
そう感じた
いままでは
声をかける理由のような「目的」があった
もちろん相手との時間を
純粋に楽しんでいた
でも自分の中の
「何か」をつかむためにも
相手に向かっていくことでしか
それをつかめなかった
気持ちの大きさとしては
その方が強かった
わたしは
自分から大きな声や
動きを出すことが
得意じゃない
人の目も気になってしまう
好意のある相手に
自分の気持ちを
素直に伝えることはできる
でもそれは
一対一だからできる
そうでない場では
過去も
動けたことがない
告白はできるけれど
距離を縮める行動はできない
だからわたしが
相手に対して取ってきた行動は
ぜんぶ
人生で初めてのことだった
関係の中での
わたしの能動性は
限られた範囲だけだった
自分の中のピースが揃い
もう
話しかける目的がなくなった
それでも
ここから先も
自分から動き続けることは
わたしの範囲を超えることになると感じた
「頑張らないと」
踏み出せない
これまで以上に
緊張や不安と戦うことになる
それが見えてしまった
関係性は
一人ではつくれない
このことに気づいたわたしは
激しく揺れていた
夫との出来事のほかにも
過去に傷ついた記憶が
次々に出てきていた
いま
相手の目を見ることはできない
確実に泣いてしまう
そう思った
はじめてわたしは
相手と静かに距離を取った
離れていても
顔を見ることはできなかった
姿を見るだけで
胸の奥が揺さぶられる
だんだん
別の苦しさが出てきた
本当は
こんなことしたくない
まるで
相手を拒否しているみたいじゃないか
逆の立場だったら
駆け引きをされているようで
わたしはきっとショックだ
「何も言わず」に
距離を取ることは
正しいことなの?
ついこないだ
背中を向けられて嫌だったと
伝えたばかりなのに
今のわたしは
同じことをしているんじゃないかと
ふとよぎった
ちょうどこの頃
レッスンの形が見えて
即興の世界に一歩を踏み出す時期と
重なっていた
わたしの挑戦が始まっていた
話したいことが
たくさんあった
でも
いまのわたしは
会うことはできない
自分を差し出すこともしない
わたしは
自分の道を歩き出した
続けていきたいから
線を引いたのに
正しい形では
伝わらない気がした
これは迎合したことに
なるのだろうか
そう思って揺れていた
でもやっぱり
何も示さないのは違うと思った
直接話すことはできない
ぜったい泣いてしまう
だから
言葉を「渡す」ことにした
新しい一歩を
踏み出したこと
自分が本当にやりたいことの輪郭が
見え始めたこと
泣いてしまいそうだから
いまは会えないこと
また二人で話せる日を
楽しみにしていると
言葉にして用意した
でも、どうやって?
これまでのように
約束はできない
わたしからは
声をかけられない
普通に考えたら
無理な話だ
でも
何とかなりそうな気がした
その日は雨だった
遠い位置に
相手の姿を見つけた
しばらく話をしていなかった
目も合わせていない
「どうだろう、
うまく渡せるかな」
この日のわたしは
渡すつもりでいたから
いつもより
視線が動いていた
少し
ソワソワしていた
相手はわたしの
昨日までとは「違う」空気を
感じ取ったのかもしれない
声をかけてきた
まるで
「約束」をしていたかのように
とても自然に
わたしの目の前に来てくれた
わたしは驚きすぎて
一瞬頭が真っ白になった
話したい気持ちはある
でもできなかった
ぶっきらぼうに手渡し
その場を離れた
そのあとも
わたしは
すぐには戻らなかった
何週間か続いていた
相手は一定の距離を
保ってくれていた
偶然居合わせそうになっても
一歩引いてくれていた
わたしを
驚かせないようにしてくれているのが
分かった
わたしから完全に離れるのではなく
「気配」を感じさせてくれた
わたしを「尊重」してくれている感じがした
わたしは
これまでずっと
この感覚がなかったことに気づいた
こちらの気持ちや状況など
お構いなしに
自分の都合で
感情をぶつけてくる人たち
何かを「奪われる」感覚があった
それでもわたしは
その人たちのことを慮って
自分の気持ちを押し殺してきた
あるとき自分の中で
「もう大丈夫かも」
そう感じた
すると相手は
それを「感じ取った」のか
自然と目が合い
言葉を交わせた
このときもわたしは
少し驚いていた
「なんで分かったんだろう」
きっと
わたしの様子をずっと
見ていてくれた
内面の細かい部分までは
分からなくても
わたしがいま
「閉じているのか」
「開いているのか」
それを読み取ってくれていた
刺激しないように
そっと
つかず離れずの距離を
保ってくれていることに
「わたしを見てくれている」
そう感じた
この感覚があったから
わたしは自分に集中することができた
わたしに
「委ねて」くれている気がした
「もう自分に嘘をつかない」
意識の上では
そう自分に決意した
けれどその奥には
「相手との関係は壊れない」
相手との信頼があったからだ
わたしは自分で引いた線を
踏み越えずに済んだ
相手がもし
不安やわたしを探る空気を出していたら
わたしはまた
以前の差し出すわたしに
戻っていたかもしれない
これまでがそうだったように
「察してほしい」空気を出されると
わたしは反応してしまう
相手には
それがなかった
いつ終わるか分からないわたしを
尊重してくれていた
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わたしは
見てもらえていることには
「安心」を感じるのだと
初めて知った

