「雨上がりの光」

夫への「執着」が

わたしの症状だった

以前は

あんなに実家へ帰りたかったのに

発症してからは

180度変わってしまった

夫と離れると

不安と妄想に支配される

確認行為をしないと

落ち着かない

一緒にいても

消えるわけじゃない

確認しても

すぐまた

別のことが浮かんでくる

だから

永遠に終わらない

自分の頭の中なのに

止められない

ゆるめることも

薄めることもできない

一人になりたくないのに

一人の時間が長い

何も考えない時間が欲しくて

思考を止めようとするけど

無理だった

お酒の力を借りないと

眠ることができない

眠りについても

朝目覚めることが

恐怖だった

「このまま

 目を覚ましたくない」

毎晩そう思っていた

人に会うことが怖くなり

一人で外出ができなくなった

薬の服用が始まると

強い眠気が待っていた

いつどこで

襲ってくるかわからないから

ますます

外へ出られない

でも

妄想はなくならない

本や新聞

テレビの音

どこでスイッチが入るか

分からないから

自分の視界と耳に

何も入れたくなかった

疲弊していた

かといって

このまま何もせずに

過ごすこともできなかった

苦しすぎるから

現状を

少しでも変える手立てはないか

模索していた

読書や

人と会うことは無理だったから

得意じゃないけれど

ゲームをしてみたり

長編DVDを見てみたり

何か「没頭」できるものを

探していた

妄想に

支配されないために

あるDVDが

少しはまった

内容が

わたしのスイッチの種類とは

違ったようだ

毎日

何時間も見続けた

その間は

集中しているから

妄想は

引いていた

ほんの少しだけ

呼吸ができるようになった

そのことから

わたしは

集中できるものを探し始めた

辿り着いたのが

「書くこと」だった

「書くことなら

 没頭できるかもしれない」

無理やり

自分を「枠」に

はめ込むことした

オーヘンリーの短編集を

引っぱり出してきた

わたしの好きな本だった

活字に触れるのが

怖かったけれど

大丈夫だった

一通り読んで

この中の話を土台にして

脚本を書くことにした

これがきっかけで

外に出ることができるようになった

完全にひとりは無理だけど

外で一人になりたかった

別行動の夫を待つ間

カフェで

ひたすら書いていた

仕上がりは

覚えていない

完全に妄想が消えたわけでも

病が治ったわけでもない

心から

満たされるのとも違う

でも

書いているあの時間は

「わたし」に戻っていた

あの感覚は

いまでも忘れない

それでも

症状は揺れやすく

安定しない

落ちる時は

とことんまで落ちた

こんな生活が

いつまで続くのか

本当にわたしは

元に戻るのか

考えると

黒い闇に飲み込まれそうになる

刺激されるのが怖くて

自分の心を

動かすことができない

いまはもう

心がどこにあるかもわからない

白いモヤがかかって

どこを見てもぼやけている

ハッキリ見えない

自分の存在も

こんな風に見えているのだろうか

「いても

 いなくても分からない存在」

自分がなぜ

ここにいるのか

生きている意味が

分からない

誰を見ても

悲しそうな

憐れんだ目で

わたしを見る

わたしは

迷惑をかけることしかできない

役に立たない

お荷物なのだと

こんなわたしは

存在する価値がないと

苦しくなった

過去の自分を

よく思い出していた

葛藤していたけど

夢に向かって走っていた

あの頃の自分

戻りたかった

鏡に映る自分の姿を見るたびに

別人のように思えて

愕然としていた

あの頃の自分が

幻想だったんじゃないか

こんな自分の姿

想像したこともなかった

なぜ

こんなことになってしまったのか

「わたしを返して」

その願いが届いたのか

娘の妊娠で

状況が変わった

薬をやめたわたしに

「感覚」が戻ってきた

解脱症状はあったけれど

気にならないくらい

爽快だった

いかに

これまでの自分が

霧の中で過ごしていたのかが

よくわかった

自分が

「正気」に戻った気がした

まだ少し

柔らかい状態だから

強い刺激には

反応してしまいそう

そんな

「感覚」があった

自分の状態が

見えている

わたしの目線が上がった

雨上がりの昼

木の葉の隙間から

太陽の光が差し込んでいる

黄色や緑色が

雨の雫と

光が反射して

きらきらと輝いている

「きれい」

自分の頬を

涙がつたう

また

空を見上げた

感じている

鉛のように重たかった

わたしの心が

「美しい」と

感じている

暗闇の中にいたわたしの心に

差し込んだ

一筋の光

心が

呼吸しているのが

分かった

「わたしが戻ってきた」

感覚を確かめるように

手のひらを

強く握りしめた

そして

またひとり

涙を流した

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