「存在するということ」

妄想が

またわたしの中に

色濃く姿を見せ始めた

薬は

飲みたくない

どんな影響が出るか

分からないから

必死に耐えていた

夫がいないから

確認行為もできず

自分の中に

溜まる一方だった

はけ口がない

でももう

自分ひとりの身体じゃない

その葛藤が

わたしを追い詰めた

これまで生きてきて

異性に嫉妬をしたことが

ほとんどなかった

相手を理解することは

過去の出来事を

すべて知ることじゃない

お互いが差し出せて

受け取れる

そのタイミングが来た時に

共有できるものだと思っていた

だから

自分の不安を埋めるために

根掘り葉掘り

情報を得ようとするのは

どこか品のないことのように

感じていた

そしてやっぱり

自分の中心が

他の誰かになることがなかった

それなのに

苦しいからと

夫に確認したがる

自分がいる

自分の美意識と

真逆のことをしている自分が

浅ましく思えて

自分自身に

嫌悪感を抱いていた

この矛盾が

いちばんきつかった

自分の在り方に

反していたから

それでも

プライドが残っていたのか

どれだけ苦しくても

自分の頭の中に

何が流れてきているのか

それを

夫と親しい友人

この二人以外には

話さなかった

嫉妬に苦しんでいる自分を

広げたくなかった

安定期に入ると

反対に

わたしの心は

不安定になっていった

自分をコントロールできず

破裂寸前のところにいた

落ち着かなくて

自分に傷をつけるようになっていた

「この子がいるから薬を飲めない」

自分の辛さを

ぜんぶ子どものせいにして

泣きながら

お腹を叩いていた

その姿を見た母が

涙を流しながら

わたしの背中をさすってくれた

「消えてしまいたい」

こんな姿を見せてしまって

心配ばかりかけて

ごめんなさい

こんな弱い娘で

ごめんなさい

親には

崩れている自分を

なるべく見せたくなくて

完全に寄りかかるのを避けてきた

でも結局

わたしの居場所は

ここにしかなかった

自分のことで精いっぱいで

子どものことまで

考える余裕なんてなかった

この精神状態の時に

会った友人に

子どもを産む自信がないと

こぼした

すると友人は

怒りをあらわにした

会った時のやりとりは

覚えていない

ただ

メールの履歴には

残っていた

母親になるのに

そんな無責任な言葉

たとえ病気のせいだとしても

わたしは受け入れられない

はっきり言われた

わたしも

反論した

縁が切れてもいいと

思っていた

誰もわたしのことを

分かってくれない

こんなに苦しいって

言っているのに

死にたいくらい

追い詰められているのに

どうして

それから解放されたいと思うことが

許されないの?

どうして

自分を優先しちゃいけないの?

だって

自分の力じゃ

どうにもできない

わたしだって

そんなこと思いたくない

この苦しさを

知らないくせに

だからそんなこと

言えるんだ

何で

誰もわたしのことを

分かってくれないの?

わたしの中の怒りが

姿を現した

浴室にこもって

泣きながら

取り乱していた

ずっと

自分の中に

溜まり続けていた

理解されないことへの悲しみが

怒りとなって

はじめて

外に出てきた瞬間だった

わたしは

夫にこれを求めていた

当たり障りのない関わりではなく

核に触れてもらえる関わり

友人は

わたしの気持ちを

否定したけれど

その理由も

自分の思いも

一緒にぶつけてきてくれた

わたしの気持ちは分かる

でも

それは違うと

同意はしてくれなかった

けれど

わたしを見てくれていた

母も言葉はないけれど

一緒に泣いてくれた

ふたりとも

わたしを

理解しようとしてくれた

弱っていても

わたしは空気じゃない

ちゃんと存在している

言っても仕方ないじゃなくて

自分の意思をぶつけてきてくれた

涙を流してくれた

ふたりの前で

わたしは

存在することができていた

だからわたしも

誰にも言えなかった

自分の本音を

怒りと一緒に

ぶつけることができた

わたしと

向き合ってくれたから

決別する勢いで

言い返していた

でも次の日

正気に戻ったわたしは

友人が本当に離れていく気がした

すぐに謝った

このとき

わたしの記憶が

抜け落ちることを

不審に思った友人は

病でそんなことがあり得るのか

すぐに調べたらしい

そんなところも

友人らしいなと

あとから聞いて

笑ってしまった

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