夫への執着が
わたしの症状だった
夫と離れると
不安と妄想に支配される
確認行為をしないと
落ち着かない
一緒にいても
消えるわけじゃない
確認しても
すぐまた
別のことが浮かんでくる
だから
永遠に終わらない
自分の頭の中なのに
止められない
ゆるめることも
薄めることもできない
一人になりたくないのに
一人の時間が長い
何も考えない時間が欲しくて
思考を止めようとするけれど
無理だった
お酒の力を借りないと
眠ることができない
眠りについても
朝目覚めることが
恐怖だった
このまま
目を覚ましたくない
毎晩そう思っていた
人に会うことが怖くなり
一人で外出ができなくなった
薬の服用が始まると
強い眠気が待っていた
いつどこで
襲ってくるかわからないから
ますます
外へ出られない
でも
妄想はなくならない
本や新聞
テレビの音
何でスイッチが入るか
分からないから
自分の視界と耳に
何も入れたくなかった
心も身体も
疲弊していた
けれど
このまま何もせずに
過ごすこともできなかった
苦しすぎる現状を
少しでも変える手立てはないか
模索していた
何か没頭できるものを
探していた
妄想に
支配されないために
辿り着いたのが
書くことだった
オーヘンリーの短編集を
引っぱり出してきた
わたしの好きだった本
この中の話で
脚本を書くことにした
これがきっかけで
外出ができるようになり
カフェで
ひたすら書いていた
完全に妄想が消えたわけでも
病が治ったわけでもない
心から
満たされるのとも違う
でも
書いているあの時間は
わたしに戻っていた
あの感覚は
いまでも忘れない
それでも
症状は揺れやすく
安定しない
落ちる時は
とことんまで落ちた
こんな生活が
いつまで続くのか
本当にわたしは
元に戻るのか
考えると
黒い闇に飲み込まれそうになる
刺激されるのが怖くて
自分の心を
動かすことができない
いまはもう
心がどこにあるのかも
わからない
白いモヤがかかって
どこを見てもぼやけている
ハッキリ見えない
自分の存在も
こんな風に見えているのだろうか
いても
いなくても分からない存在
自分がなぜ
ここにいるのか
生きている意味が
分からない
誰を見ても
悲しそうな
憐れんだ目でわたしを見る
わたしは
迷惑をかけることしかできない
こんなわたしは
存在する価値がないと
苦しくなった
過去の自分を
よく思い出していた
葛藤していたけれど
夢に向かって走っていた
あの頃の自分
戻りたかった
鏡に映る
自分の姿を見るたびに
別人のように思えて
愕然としていた
あの頃の自分が
幻想だったんじゃないか
こんな自分の姿
想像したこともなかった
なぜ
こんなことになってしまったのか
「わたしを返して」
その願いが届いたのか
娘の妊娠で
状況が変わった
薬をやめたわたしに
感覚が戻ってきた
解脱症状はあったけれど
気にならないくらい
爽快だった
いかに
これまでの自分が
霧の中で過ごしていたのかが
よくわかった
自分が
正気に戻った気がした
まだ少し
柔らかい状態だから
強い刺激には
反応してしまいそう
そんな
感覚があった
自分の状態が
見えている
わたしの目線が上がった
雨上がりの昼
木の葉の隙間から
太陽の光が差し込んでいる
黄色や緑色が
雨の雫と光に反射して
きらきらと輝いている
「きれい」
自分の頬を
涙がつたう
また
空を見上げた
感じている
鉛のように重たかった
わたしの心が
美しいと
感じている
暗闇の中にいた
わたしの心に差し込んだ
一筋の光
心が
呼吸しているのが
分かった
「わたしが戻ってきた」
感覚を確かめるように
手のひらを
強く握りしめた
そして
またひとり
涙を流した


