「音の風」

自分の中のパーツが揃うと

流れの質が変わっていった

ずっと

ピアノレッスンの形について

わたしは考えていた

教える、教えられるという形が

どうも自分の中で

しっくり来なかった

自分の技術に

自信がないからだと思っていた

それをなくすために

練習に励んできた

でもやっぱり

本質はそこじゃない気がしてきていた

ほかにまだ

わたしが知らない「形」が

存在するんじゃないか

そんな考えが

浮かび始めた

わたしの元へ来てくれる子に

解決できない壁があった

わたしの目には

目で見えている姿とは違う、

その子が見えていた

何かが

その子の周りを覆っている

本当は

もっと外に出たいのに

出られない

もっと

大きく動きたいのに

それができない

何かを

「抑えている」印象があった

その姿は

まるでわたし自身のように

感じられた

わたしは

相手の言葉から

「音楽の原点」に辿り着いていた

大学で学んできたことが

ここで結び付いた

触れたくない記憶がある

怖い

でもきっとこれだ

だって

きれいに結びついてしまった

それでもやっぱり

自信がない

即興演奏の世界は

わたしには向いていない

ピアノの技術も

音楽の知識も

全然足りていない

あの子の「音」を展開して

音楽をつくるなんて

わたしには

できない

一人で演奏するのも怖いのに

一対一で

即興で向き合うなんて

足がすくむ

音が止まってしまったら?

和音進行を間違ってしまったら?

わたしがリードしないと

いけない立場なのに

それでは成り立たないじゃないか

過去の失敗した記憶が

襲い掛かる

「無理だ」

違う

即興をやりたいと思ったことは

一度もない

わたしがやりたいのは

むかしからずっと

創作だけ

ふと立ち止まる

「創作?」

わたしがやりたいことは

何なのか

「自分の世界を形にする」とは

どういうものを指すのか

また

わたしの中で

大きく揺れ動き始めた

「何かを表現したい」

その「何か」は

自分の内側にあるもの

その手段は

言葉と絵だけなのだろうか

わたしは

「総合芸術」をつくりたいのに

音楽は

どうやって表現するのか

ここを

深く考えたことがない自分に気づく

いつも何かが引っかかっていた

奥へ踏み込むのを

引き止めていた

曲を演奏すること

演奏技術を磨いて

曲と向き合い

自分の音を表現する

それが「表現」だと

思っていた

果たして

本当にそうなのだろうか

わたしが求めている「音楽」は

それなのだろうか

もちろん

それも大切だ

だから勉強は続けていく

でも言葉や絵は

内面からくるものを

自分の形と色で置いているのに

音楽だけ

誰かがつくった形に

自分の色を重ねているのは

少し違う気がした

わたしの考える「創る」と

ズレている感じがある

わたしが求める「音」

その形は

どんな形なのだろう

初めて

音楽の在り方について

考えていた

自分の内側から湧き出るものを

音にする

それは作曲や

演奏とは少し違う

時間をかけて

つくっていくものじゃない

もっと

中心にあって

純度が高いもの

その人の「言葉」や「感情」のように

「その瞬間」に生まれるもの

自分の外側にあるものを外し

本来の姿で

そこに在る

純化された「音」

その音から生まれる「空間」

その空間の中に在るものは

「ありのままの姿」

その自分が発する音は

「自分自身そのもの」

ありのままの自分と

子どもと

「一緒に」つくる

上下もない

比較も評価もない

同じ地面に立つ

「対等な関係」

「これだ」

すべてがつながった

自分がずっと抱えてきた

レッスンの形の疑問も

解決策が見つからなかった

あの子のことも

つながった

またわたしは

自分で見えなくしていた

「できるかどうか」じゃない

それが「必要」だから

やるだけだった

技術じゃない

在り方の問題だった

わたしは

その空間に立てる人間なのか

逃げずに

ありのままの姿を

見せることができるのか

わたしが望んでいたのは

これだった

思い描いてきた

理想の自分の姿は

ここにあった

自由になりたかった

何にも縛られず

自分を解放したかった

自分の光を

遠くまで飛ばしたかった

言葉と絵とも違う

音楽は

空気を動かす

「空間をつくる」ことができる

「空間に風を起こす人」

それが

わたしが

追い求めてきた自分の姿だった

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