同じ高さにいた
わたしたち
重なる
はずだった
でも
ほんの少し
誤差があった
ひとつは
お互いの認識のズレ
わたしの気持ちは
前を向いていた
自分の感覚を
疑っていなかった
「大丈夫
きっと今日だから」
無理やり
思い込んだわけじゃない
力が抜けて
ゆるんでいた
自然に
そう思えていた
だから
余計に
今回がそのときだと
疑わなかった
でも
相手の姿を
目にした瞬間
わたしの心は
閉じてしまった
わたしの中に
ひとつ
目安があった
それは
「顔を隠しているかどうか」
隠しているときは
まだ整えの途中
隠していないときは
外へ開いている
無意識で
わたしは
そうやっていつも
判断していた
必ず
そうあるわけでは
ないけれど
「今日だけ」は
隠さないはずだ
だって
それも覚悟の形
向き合うつもりなら
「そうするはず」だと
わたしは
思っていた
だから
顔を隠して現れた
相手を見て
「まだだったんだ」
瞬時に
そう判断してしまった
即断してしまう
わたしの癖が
出た
動揺が
隠せない
また
苛立ちが出てきた
この気持ちを
どう落ち着けていいのか
分からない
相手の声が耳に入るたび
泣きそうになる
だから
わたしは離れた
あそこは
わたしが自分を守るために
立っていた場所だから
戻りたくなかった
そこに戻るのは
自分に負ける気がした
それくらい
嫌だと思っていたのに
わたしは
動いた
もう
自分を保てる
ギリギリのところだった
不安と
苛立ちで
わたしの心は
いっぱいになっていた
さっきまでの穏やかさは
どこにいってしまったのか
でも
もしかしたら
小さくても
なにか
示してくれるかもしれない
そんな希望も
持っていた
あのとき
何度も通りすぎた
でも
それだけだった
わたしの心は
強く締め付けられたけど
また
あの諦めの心境に
戻っていた
「期待した
わたしの思い込みだった」
そして
ここから
溜まった怒りを
出していく
この時の
わたしたちは
小さなズレが重なっていた
相手は
勝負に出るとき
内面の揺れとの
バランスを取るために
顔を隠すことがあることを
わたしは
理解していたはずだった
わたしの
勝手な先入観で
狭い見方をしてしまった
逆に言えば
それだけ覚悟を決めていた
ともいえるのに
目に見えるものに
囚われてしまっていた
だから
きっとあの日
相手は閉じていたのではなく
「開いていた」
本気で
動こうとしていた
反対に相手は
わたしが
動きを見せたことで
わたしが
「開いている」と
捉えたのかもしれない
だから
目の前を
何度も通りすぎた
けれど
わたしは
相手が閉じていると思ったから
自分も閉じていた
ほんのわずかな可能性だけを
残して
相手は
自分も開いていて
わたしも開いていると
思っていた
そのふたりが
近づいても
交差は起こらない
わたしは
一度閉めた扉を
わずかな希望に託して
少しだけ開けた
相手は
わたしの扉が
開いていると思って
来たけれど
実際は
閉まりかかっていた
わたしたちは
一枚の扉の
内と外で
立ち止まっていた
その緻密な誤差が
見事としか
思えないくらい
綺麗な
すれ違い
美しさを
感じてしまうほどに
ほんの少し
そのわずかな差が
生み出したのは
数ミリのすれ違い

