自分の中に
空白が生まれていた
わたしの意識は
外側ではなく
内側に向いている
それなのに
何かに
集中しているわけでも
思考しているわけでもない
自分の内側の声も
聞いていない
聞いていないどころか
いまのわたしには
言葉が流れてきていなかった
完全に
無音の状態
でも
無機質な感じではない
「静寂」
とても
静か
静かだけれど
孤独ではない
暗い世界でも
狭い空間でもない
わたしの目の前には
広い景色が
映っている
ほどよい光と
澄んだ空気が流れている
さわやかな風が
わたしの髪に触れてくる
わたしは
その心地良い場所で
ひとり座っている
ただ
その景色を眺めて
感じている
こんなに
穏やかな時間を
過ごしたことがあっただろうか
わたしの中にできた
空白
それは
わたしを守ってきた
防御のスイッチが
完全に切れた証
自分を守らなくても
良くなったから
空気も
誰かの気持ちも
何かを
読み取る必要がなくなった
常に意識を
広範囲に向けていると
消耗も激しい
けれど
一人で全部をこなすには
そうせざるを得なかった
これが当たり前だと思って
生きてきたから
ゆるめるという
発想がなかった
ここまで
必死に走ってきて
無意識に背負っていた役割から
完全に降りた
もう
戦う自分は終わった
何も持たない
そのままのわたしが
いま
ここにいる
この先の自分を
思い浮かべた時に
ここから
また戦いの中に入っていく自分が
想像できなかった
この穏やかさは
初めての感覚
一人だけど
一人じゃない
だから
寂しさはない
完全に
満ちている
「戻ってきた」
きっと
これが終着点
この
流れるような
穏やかな空気
これがすべて
わたしはいま
はじめて
安心を感じている
防御は外したけれど
何かに守られている
「幸せだな」
まるで
ふと思い出したかのように
言ってしまいそうになる
丘の上で
景色を見ながら
立っている
どんな終わりが
待っているのか
想像できなかったけれど
実際は
驚くほど静かで
波がない
ただ
穏やかに
流れている
でもこれは
終わりではなく
本当は
はじまり
物語は
一度おしまい
でも
もう少しだけ
この幸せに浸っていたい
空白の休息
いまこのときを

