「青の空間―はじまり―」

朝から

気持ちが下がっていた

せっかく

ようやく会えるかもしれないと

いい一日にしようと

明るい気持ちで

眠りについたのに

起きた瞬間に

現実に引き戻された

目の前に

重い現実を突きつけられて

心が乱れた

これは

まだ会えないという意味なのか

ようやく

相手にまっすぐ

向けると思ったのに

水を差されたようで

ものすごく嫌な気分になった

ただ

その事実が

嫌だった

何でこのタイミングなのかと

苛立ちさえした

心がすべて

相手に向かっていない

この状態では

まだ会えないんじゃないか

めずらしく

後ろ向きな気持ちになっていた

自分では

そうは思わないけれど

わたしは

あまり内面が

表情に出ないらしい

嬉しさや楽しさといった

光の感情は

きっと

ものすごく顔に出る

でも

負の感情は

抑え込む癖があるから

あまり出ないのかもしれない

だからこの日も

周りには

変わりなく見えたかもしれない

けれど

心は鉛のように

重かった

だからこそ

このあと起こる自分の変化を

はっきりと

感じることができた

あのとき

後ろから

相手の声が聴こえてきた

わたしの心は

瞬時に反応した

これは

自分の内側が

荒れていないときの

重心が下がって

安定しているときの声

器の大きさを感じさせる

安心感のある声

まるで

低音の木管楽器や

弦楽器のように

地響きのような太さと

下に張るような音

地面の奥行きを感じさせる

下へ広がる振動

ふんわりと

柔らかく包み込むのではなく

地にしっかり根を張って

大きく支えてくれる

そんな安心できる音

わたしは

「音」に

反応する人間だから

言葉の意味は

耳に入ってこない

その声の質感が

わたしに触れてくる

耳の後ろ

首と肩の後ろあたりで

わたしは

その音を聴いていた

そこは

緊張すると

力が入って固まってしまうところ

相手の声は

わたしの緊張を

真っ先に緩めてくれた

その声の質が

わたしの心にあった鉛を

溶かしてくれた

姿は見ていない

言葉も交わしていない

ただ

音に触れただけ

でもわたしは

もう笑っていた

声に出して

あんなに

嫌だった出来事

事実は

何も変わっていない

これから

その時はやってくる

でも

「何とかなるかな」

心が軽くなった

再会が

近づいている

あの時間

わたしたちは

声で触れ合った

まだ

接触はしていない

けれど

声を通して

確かな「共鳴」が

起こっていた

静かに

気づかないくらいの温度で

ゆるやかに近づいてきていた

きっとこれは

再会のはじまり

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