「天使と名前」

初めてのことだから

最初は怖かった

自分が耐えられるのか

この状態で

無事に産むことができるのか

不安に襲われていた

でも

友人とのこともあり

自分の中でひとつ

何かが定まった感じがあった

「母親になる覚悟」

日が近づくにつれて

少しずつ

冷静になっていった

子どもの名前を

決めてしまおうと思った

ここでもまた

違和感があった

わたしは

子どもの名前を考えていた

でも夫は

わたしからの案に

返事をするだけだった

自分の両親が

わたしの名前を付けるとき

意見が割れて

なかなか決まらなかった話を

よく聞かされていた

父は

三人の子どもの名前を

率先して考えていた

子どもの名前は

親が子どもに対して贈る

いちばん最初のギフト

一生ともに歩む

その子を表すもの

責任があるし

やっぱり

親としての想いを込めて贈りたい

わたしは

ずっとそう思ってきたから

夫の反応が

不思議で仕方なかった

だから

ふたりの子どもの名前は

わたしが一人で考えた

名前も決まり

準備が整ってきた

わたしは

自分がどんな出産がしたいのか

考えていた

自分の在り方を

決めていた

夫が立ち会えないことは

もう分っていた

このときだけは

わたしも望んでいなかったから

安心していた

「一人の方が集中できる」

子どもと一緒に頑張る

そう思うと

不思議と不安がなくなった

どんな痛みにも耐える

ぜったい泣き叫んだり

暴れたりしない

苦しいのは

この子も一緒

わたしだけじゃない

一緒に頑張ろうね

こうして

わたしはその日を迎えた

帝王切開の可能性が

あったから

まる一日

水一滴も口にできなかった

母が付き添ってくれた

ずっと一緒にいてくれて

眠っていないはずなのに

わたしと同じように

頑張ってくれた

痛みに襲われながらも

わたしの頭には

とめどなく妄想が流れてくる

妄想と痛みの両方に

耐えていた

この妄想は

いったい

いつになったら終わるのか

そんなことを

考えていた

産まれる瞬間は

父親以外は付き添えなかった

そこからは

ひとりで挑んだ

そして

その瞬間がやってきた

泣き声が

聞こえない

不安が走る

少し遅れて

まるで眠っているところを

無理やり起こされたかのような

かよわい産声があがった

自分の胸の中にいる

小さなあたたかい存在を前に

深い安堵と

喜びでいっぱいだった

「こんな小さいのが

 本当にお腹にいたんだ」

不思議だった

ちょうど父も

到着したところだった

娘の姿を目にした母が

「天使がいる」

娘はぱっちり目を開けて

機嫌よく

自分の手を見つめていた

母の言葉じゃないけれど

娘のまわりに

キラキラしたものが舞っているような

あの子のまわりだけ

空気が違っていた

時間の流れが

ゆっくりになっているような

異次元から

やってきたような

そんな

神秘的なものに見えた

あの日

わたしと

わたしの両親が迎える中

あの子は産まれた

わたしのもとに

天使がやってきた

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