夫との出会いは
突然だった
父に
「会ってほしい人がいる」
そう言われた
それまでにも
何度か言われ
断っていた
気に留めていなかったから
覚えていない
父も
断るのに限界が来て
「一回だけだから」と
お願いされた
夫の両親が
わたしの写真を見て
気に入ってくれた
それが
始まりだった
まったく気が乗らない
嫌で仕方なかった
一人になって
まだそんなに
時間も経っていない
たしかに
「結婚」という選択肢は
加わりつつあったけれど
わたしが
望む形ではなかった
それに
「相手の親」という存在に
トラウマも持っていた
父の気持ちも
分かっていたから
一回だけの約束で
返事をした
お互いの両親を交えて
会うことになった
夫の両親が
わたしのことを
快く思ってくれているのが
伝わってきた
安心している
自分がいた
自分から何かを話さなくても
気の利いたことができなくても
大丈夫
受け入れてもらっているような
感じがした
「わたしが
おかしいわけじゃなかったんだ」
夫の両親の反応を見て
これまで自分がいた環境が
特殊だったことに
ようやく気づいた
誰にも
認めてもらえないと
思っていた
この気づきは
大きかった
「安心」できたような
気がした
親同士
顔が知られていて
話は早かった
出会いから
二か月で
結婚が決まった
母には
「もっとゆっくりにしなさい」
心配されていた
もう
夫に言われてしまっていた
夫の両親も
もちろん知っている
「男性が求めてくれているうちが
女性は幸せよ」
義母のその言葉で
わたしの返答を待っているのが
夫だけじゃないと気づいた
嬉しさはある
けれど
焦っている自分もいた
自分ではちゃんと
ついていってるつもりだったけど
ペースの違いに
ついていけてなかった
おそらく母は
それを見抜いていた
わたしは
急かされるのが好きじゃなかった
なんでも
自分のペースで
進めたかった
突然何かを
その日に言われたり
急に予定変更されることも
苦手だった
大きな音や
激しい動きが
苦手であるように
神経が過剰反応してしまう
だから
前もって準備して
動きたいタイプだった
そうじゃないと
急な緊張で
苦しくなってしまう
舞台の件があってから
自分と二人で過ごす時間を
持たなくなっていた
自分の内側が
綺麗に
外側に反映されていた
夫は安定感のある人だった
結婚相手として
理想的な人だった
自分の中心を失って
足元がぐらついている
わたしに
夫は魅力的に見えた

「この人と結婚するんだな」
この直感に
間違いはない
でも外側は厚く
安定した壁があるのに
内側は
空洞になっている
そんな感覚があった
自分の深い部分には
触れていない
この自分には
気づいていた
けれど
それは「不安」とは違った
だから
自分でもその正体が何なのか
分からなかった
夫とは遠距離だった
だから
結婚が決まるまでに会えたのも
数回だけ
それで決まってしまった
ゆっくり
時間を過ごすことができない
夫の両親も
わたしに会いたがってくれた
可愛がってくれていることを
嬉しく思っていた
前の人との差が
より一層際立った
「求められていること」に
安心した
だから
その気持ちを
拒否することはできない
「期待に応えないと」
この意識が
生まれてしまった
毎日が目まぐるしく
洗濯機の中に入っているような
感覚だった
自分の本心なんて
とっくに見えなくなっていた
わたしは「結婚」したいのか
「この人と」結婚したいのか
そこを深く見ないまま
流れてしまった
それでも
夫との結婚は
間違いじゃない
ただ
「自分の意思」で
選んだのか
そこを問われると
即答できない自分がいる
舞台の仕事から離れると
決めたのも
結婚することも
遠く離れた場所に行くことも
「自分で」決めた
「外側の」
自分が決めた
外側の自分と
内側の自分
この時から
乖離していた二人の自分が
ますます
離れていくことになる
わたしは
「また」
同じ流れを選んでいた
夫との出会いから
半年後
わたしは入籍した

