自分の道が
はっきり見えたわたしは
少しずつ動き始めていた
まだ
慣らし運転のような感覚だった
「何となくこういう形になるかな」
そんな枠を考えていた
「自分の美術館をつくる」
このことを
相手に伝えたくて仕方なかった
ようやく見つけた
わたしの光
発見があるたびに
伝えてきた
本命がやっと見つかった
本当は
一番に伝えたかった
ところが
空気が穏やかじゃなくなった
ここが
わたしたちの転換点だった
相手の周りにいる人たちとの
空気も変わった
わたしは
まったく近づけない
自分からは動いていなかったけれど
わたしたちは
空気や気配で触れあっていた
でも
あるときから
離れた場所から見ているわたしには
相手が
混沌とした渦の中で
もがいているように見えた
「苦しそう」
見ているだけで
わたしも息苦しくなった
赤や黒のような
ドロドロした何かが
身体にまとわりついてくる
相手の焦るような表情
外側では笑っているけれど
わたしには
泣いているように見えた
このとき
一瞬
ある思いがよぎった
そしてそのあと
わたしに対して「背中」を向ける
相手の姿を見て
すべてを悟った
「あぁ、そういうことか」
わたしがいるから
きっと苦しい
息苦しくさせているのは
わたしなんだと
気づいた
さっき感じたあの直感は
やっぱり間違いじゃなかったんだ
きっとそれしかない
そうすれば相手は
あの身動きが取れない場所から
動けるはずだ
わたしは相手から
完全に離れる決意をした
以前のような
小さな波じゃない
経験したこともない
激しい渦の中に
入っていくようだった
ただ
離れるだけなのに
ただ
姿を見せるのを
やめるだけなのに
すぐには
自分に許可を出せなかった
痛みと苦しさで
頭が変になりそうだった
涙で視界はもう
何も見えない
自分の半身が
自分の心が
えぐられるようだった
痛くて
痛くて
逃げ出したかった
「離れなくても
いいんじゃないか」
でもこのまま続けても
きっとまた
同じことが起こる
それが分かっていた
「こんなに痛いなんて
聞いてない」
病で苦しかった時より
過去に傷ついた
どの出来事よりも
痛かった
わたしにとって
相手の存在が
どれほど大きかったのかを
はじめて思い知った
違う
これはお別れするわけじゃない
また会うために離れる
自分に言い聞かせていた
それでも
手放せない
だってこのままじゃ
二人とも苦しい
あのままじゃ
窒息してしまう
きっとわたしじゃないと
これを終わらせることはできない
大丈夫
ぜったい乗り越えられる
完全に失うわけじゃない
次に進むために
終わらせる
苦しい
こんな痛みが待っていたなんて
「どうしても
さよならしないとだめですか?」
「わたし何でもするから」
なかなか
覚悟が決められなかった
「お願い」
ほかに方法はないの?
「分かってる」
最初から
分かってた
わたしは
信じてる
大丈夫
わたしたちは大丈夫
「またね、バイバイ」
わたしは
覚悟を決めた
次の日から
わたしの戦いは始まった
相手には会わない
けれど
相手の周りにいる
「その人たち」と向き合うことは
過去の自分を終わらせるために
必要だった
わたしが姿を見せなくなると
その人たちの圧が
勢いよく増した
わたしを見て
優越感に浸っているような
そんな空気が伝わってきた
笑われても
陰で何かを言われていても
気にしない
自分に集中した
「わたしの覚悟を
邪魔されてたまるか」
本心は
怖くてたまらなかった
いつどこで
何が飛んでくるか分からない
相手から離れて
自分があの空気の
何に息苦しさを感じていたのか
それが見えてきた
わたしは
その人たちに怯えていた
わたしの気持ちなど
無いもののように扱われ
踏み込んでくるたびに
わたしは深く傷ついていた
何をされても
自分に非があると思っていたから
顔色を窺って
関係を保とうとしてきた
そうやって
「怖がっていた自分」を
やっと見つけた
相手から離れると同時に
わたしの創作の波は
ピークを迎えていた
まるで
何十年分もの
溜め込んできたエネルギーが
ようやく出口を見つけて
一気に解放されていくようだった
わたしは
寝食を忘れるくらい
没頭していた
二週間で体重が
3キロ落ちた
頭の中に流れてくる言葉の波が
止まらない
その度に
過去の記憶も出てくるから
身を切るようにして
書いていた
書ききるたびに息切れをしていた
でも
次々に出てきて止まらない
一生分の涙を流したと
言ってもいい
止める術がないくらい
流れ続けていた
過去の自分と
完全に離れるための涙
あの痛みの先に
あったもの
わたしは
「自分自身」を取り戻した
また、会うことができた
その事実に
また何度も涙した
「中心」を取り戻したわたしは
もう揺れなくなっていた
自分が定まると
その人たちへの恐れも
薄まっていった
冷静に
「客観視」できるようになった
コロコロ変わる感情に
いつも振り回されていた
でもそれは
わたしには関係のないことだ
わたしが悪いわけじゃない
むしろ
感情を自分で扱えないのは
大人とは言えない
分かりやすく感情を出すその人とは違って
人当たりが良く見える人もいた
最後まで見極められなくて
迷った
「わたしの勘違いなのかな」
その人に寄りそうになる
自分がいた
わたしと二人のときは
何もないかのように
普通に接してくる
けれど
離れたところではわたしを見て
二人で笑っている
この一貫性のなさが
そもそもおかしいじゃないか

その人は
わたしにだけじゃなく
いないところでは
相手のことも
まるで物のように扱っていた
それを聞くたびに
わたしの怒りがざわついていた
間違っていなかった
「わたしは
自分を雑に扱ったりしない」
あらためて
心にそう決めて
わたしは
また相手の前に
姿を見せることに決めた
元の場所に戻ると決めた
あのときの
相手の表情を
わたしは忘れない
「わたしが間違っているわけじゃない」
これまで
人の空気を読んで
自分を小さくして生きてきた
そのたびに
自分が悪いことをしているような感覚が
積み重なっていた
でも
わたしは何も悪くない
何もしていない
堂々としていていいはずだ
だから
「わたしは
自分の行動を変えない」
自分を取り戻したわたしが
過去の自分とは違う道を
選んだ瞬間だった

