「結婚」に
憧れを抱いたことはなかった
夢をみたこともない
わたしが求める幸せは
そこにはない
それが分かっていた
わたしにとっての
「幸せ」とは何か
それは
「自分の中にある情熱を
形にすること」だった
その自分の幸せを
見えない位置に置いていた
あの頃のわたしは
どこに向かっているのかも
分からなくなっていた
これまでとは
「何か」が違う
ずっと
そこにあったもの
あるのが当たり前すぎて
手元を離れたものが
「それ」であることに気づけない
今まで中心にあった
「何か」がなくなっている
自分を生きるために
必要なもの
その
「大切さ」を
分かっていなかった
きっと
無意識では
分かっていた
だから離れそうになると
ふいに
手を伸ばしていた
完全に消えてしまうのを
引き止めていた
ただ
自覚はしていなかった
なぜ
負の連鎖から
抜け出すことができないのか
その原因が
分かっていなかった
「自分」を失った状態では
周りに振り回される
中心の軸が
ないから
わたしは
人が「自分」を見失ったとき
どんな変化を辿っていくのか
身をもって体感した
わたしにとって
結婚式は
人生でいちばん思い出したくない日
となっていた
結婚してからのわたしは
目に光がなかった
寂しさや
孤独感もあったとは思う
ただそれは
表面のものであって
その奥にあったのは
「喪失感」だった
あの喪失感が
写真に全部
映し出されていた
自分を取り戻したから
見えてきた
あの頃の
真実の自分の姿
今はもう
手元にないけれど
結婚式の写真も
同じだった
主役の日だから
「笑っている」
でも目は
笑っていない
それどころか
その奥には
「怒り」がある
あれは
自分を失ってしまったこと
不当な扱いに
抵抗しなかったこと
自分の気持ちを
飲み込んだ結果が
これなのだと
自分自身に対する
怒りだった
わたしの身体は
病に侵され始めていた
それでも
「結婚式」という目的があるから
気力で持ちこたえていた
式は地元で挙げるため
時間をかけて
行き来していた
式はまだだけど
籍は入っていたから
わたしはもう
「嫁」だった
本当は
実家に帰りたい
でも
言えなかった
夫の両親は
「帰ってきたときしか
会えないんだから」
わたしたちの帰りを
楽しみにしてくれていた
わたしも
自分の両親に会えるのは
その時しかない
でもこの気持ちは
「甘え」なんだと
自分を抑え込んでいた
なぜか
自分の両親と
自分の間に
太い線が引かれたように
感じられた
まるで
他人になっていくような
疎外感があった
「これが結婚なの?」
自分の中に
小さな疑問が生まれ始めていた
「優希ちゃんの
好きにしたらいいからね」
そう言ってくれたけど
わたしが介入できたのは
自分が身につけるものと
会場の装飾
それに進行だけだった
「結婚は家同士のものだから」
他は口を出せなかった
親同士
意見が合わない出来事があった
わたしの親は
揉め事を望んでいなかった
それでも
頭を下げてお願いをした
けれど
取り合ってもらえず
そのまま
進められてしまった
わたしは
自分のことなら我慢できる
いくらでも飲み込んで
耐えられる
でも
大切な人が傷つけられるのは
我慢ができない
夫の両親に
直接言いに行くつもりだったけど
さすがにそれは
親に止められてしまった
代わりに
夫に訴えた
「親が決めたことだから」と
聞き入れてもらえなかった
疑問は
深まるばかりだった
親のことだから?
誰の結婚式なの?
怒りが湧いてくる
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式当日も
平穏で終わるはずがなかった
花嫁は笑顔でいないといけないのに
眉間にしわが寄る
自分の怒りを鎮めるのに
集中しないと
破裂しそうだった
結婚式は
人生で一番幸せな日だなんて
誰が言ったんだろう
とりあえず
わたしには当てはまらない
人生で
最悪な日だ
そんな風に
思ってしまっていた
百歩譲って
「親が決めたことだから」と
そこは飲み込むことにした
状況的に
難しいことも分かっていた
けれど
夫は
わたしや
わたしの両親に対して
何か誠意を示すべきじゃないのか
夫にそう伝えた
わたしは
結婚して初めて
自分の怒りを夫に示した
これが
わたしたちの分岐点だった
自分の中で
積み重なってきた
疑念
「この人は
わたしの味方なのか」
何があっても
わたしから目を逸らさず
わたしの側に立ってくれるのか
夫の周りを囲む
たくさんの「家族」の存在が強くて
ここが見えにくかった
大きな枠の中に
甘んじるのではなく
「ちゃんと
わたしと向き合える人なのか」
あのときのわたしは
そこを見ていた
夫の覚悟をみていた
「本気で」
共に生きていく気持ちが
あるのか
口先ではなく
行動で
それを求めた
ここが明確じゃないと
信用ができない
心を開くことができない
わたし自身もずっと
この結婚に
「逃げてしまった」と思っていた
自分とも
夫とも向き合わず
曖昧に流されたから
この状況になったのだと
自分を責めてきた
でもわたしは
ちゃんと向き合っていた
たしかに
逃げの気持ちもあった
それでも
決めた以上は
逃げずにいた
逃げで始めても
本気で生きてしまう
そういう生き方しか
わたしはできない
そこだけは
ブレていなかった
夫は
向き合ってくれなかった
有耶無耶にされて
この話は流されてしまった
わたしは
結婚式の日に
夫に対して
静かに心を閉じた
開く前に
閉じてしまった
あの時のわたしは
何も気づいていなかったけれど
あの怒りは
間違いじゃなかった
わたしのわがままでも
甘えでもない
自分の尊厳を守るための
正当な行為だった
迷いの中にいても
わたしは
ちゃんと
自分を守っていた

