「PianoⅠ―降伏―」

わたしにとって

ピアノは

高嶺の花だった

近くにあるけれど

気軽に近づけない

触れることに

資格がいるような気がしていた

クラシックの壁

ピアノ歴の壁

本当は

素直に惹きこまれて

飛び込んでいきたいのに

目の前に立つと

足りていない自分が

照らし出されて

逃げ出したくなる

上手く弾けなかったらどうしよう

自分のレベルの低さを

知られるのが恥ずかしい

すごくやってみたいけれど

失敗したくない

だから

理由を見つけて

言い訳をして

ブレーキを踏んでいた

本気になって

傷つくのが怖かった

他のことが見えなくなるくらい

夢中になって

でも

才能がなかったら?

ピアノを選ぶことは

これまでの自分の選択を

すべて否定することになる

関わってくれた人たちを

呆れさせてしまう

迷惑をかけてしまう

そんな気がしていた

選んだあとの自分が見えなくて

踏み出せない

「ピアノがなくても

 何の問題もない」

「わたしが本当にやりたいことは

 ピアノじゃない」

そうやって

やらない理由を

自分に言い聞かせてきた

抑え込まないといけないほど

大きな存在

全てを委ねてしまえたら

どれほど幸せだろうか

でも

大切なものほど

その大切さに気づけない

完全に失って

はじめて

自分の本心に辿り着く

その存在が

目の前からいなくなって

触れることも

感じることも

出来なくなったとき

ようやく

気づく

自分にとって

何よりも

失ってはいけない存在だったことに

言い訳で

自分を固めていられるうちは

まだ余裕がある

恥をかかないように

自分の未熟さが

露呈しないように

かっこつけて

スマートな自分を装う

それが

自分でコントロールが不可能な

予期せぬ状況に陥ったとき

転機が来る

まるで

嵐のような

大きな渦に巻き込まれて

忙しさと

余裕のなさで

その存在を

忘れてしまいそうだけれど

逆だった

聞きたい

触れたい

感じたい

心の底から

求めている自分がいる

追い詰められて

暗闇に落ちる

音も光もない

たった一人

足元から

何かが崩れていく

大きなものを失った感覚だけが

残り続ける

何も見えない

暗闇の中

嵐でノイズが消え去った

ほんの一瞬の

静寂

その存在が

姿を現す

その響き

その感触

奥まで息が届くような

言葉にならない渇きが

満ちていくような感覚

美しく

儚げな光を放つ姿に

ずっと探し続けていたものが

何だったのか

ようやく

認めることができる

ピアノを愛している

そう言えば

正直になれた気がしていた

けれど

それさえまだ

理性で整えた言葉だった

素直に

降伏するしかない

ピアノを愛したくて

仕方なかった

その奥にいた

渇いたままの

むき出しの自分を

見つけてしまったから

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