第七章 芸術の浄化作用

目次

芸術がもたらすもの―美の働きと浄化作用―

人はなぜ

「美」を
求めるのだろう

その理由のひとつに

芸術が持つ
浄化作用がある

美に触れるとき

わたしたちの内側では
静かな変化が起きている

言葉にならない感情が
ほどけていく

整理できなかったものが
流れていく

それは

美しいものを
ただ眺めているからではない

作品に

触れることで

自分の内側にあったものが
動き始めるから

作品を見ているのに

見ているのは

自分の感情かもしれない

わたしたちは

作品を
ただ受け取っているのではなく

作品と
「対話」している

そこにある
色や音

言葉やかたちに

触れたとき

自分の中にある

記憶や感情

まだ

言葉になっていないものが
反応する

作品から
何かを受け取り

それに応えるように
自分の内側も動いていく

そのとき

心の奥にあったものが
浮かび上がる

人は

言葉にできないものを
抱えている

うまく

言葉にできなくても

感じているものは
確かに
自分の中にある

そして

それを抱えたままでは
苦しくなることがある

だから人は

言葉だけではない
さまざまな方法で

内側にあるものを
表現してきた

絵

音

言葉

身体

空間

光

それらはすべて

言葉にならないものに
「形」を与える

自分の内側に

あるときには

うまく

捉えられなかったものも

音や色

言葉や動きとして
外へと表すことで

少しずつ
輪郭を持ちはじめる

表現することは

内側にあるものを
外へと

解放すると同時に

自分の中に
何があったのかを

自分自身が
知ることでもある

作品に触れたとき

「わたしのことだ」と
感じることがある

自分では
言葉にできなかった

感情が

そこに
表されているから

作品を通して

自分の内側にあったものが
映し出される

芸術は

「言えなかったもの」の代わりに
語ってくれる

そこでは

感情に
正しいも間違いもない

悲しみも

怒りも

不安も

そのまま
表現として

存在することができる

だから人は

安心して

感情を流すことができる

それが

浄化作用

美のあいだに生まれるもの――芸術の本質について――

美しいものは

作品の中だけに
あるのだろうか

同じ景色を見ても

心を動かされる人もいれば
何も感じない人もいる

同じ音楽を

聴いても

そこに
深く心を

動かされることもあれば

通り過ぎていくこともある

だとすれば

「美」は

ものの中だけに
存在するのではない

目の前にあるものと
それに触れた人の内側

そのあいだで

心が動いたときに
立ち上がるものでもある

美とは

心が動く現象

そして芸術とは

その動きが

外と内のあいだを
循環すること

芸術は

特別な才能を

持つ人だけのものでも

特別な場所にだけ
存在するものでもない

ふと

差し込む光

風の揺れ

色の重なり

日常の中で
何かに触れ

そこに
美しさを感じたり

心を動かされたりする

その瞬間にも

外側の世界と
自分の内側とのあいだには

小さな動きが
生まれている

芸術のはじまりは

そのような
心の動きの中にもある

作品は

心が動くための
ひとつのきっかけになる

創り手が

自分の内側にあるものを

表現として

外へと差し出す

そして

その作品に

触れた人の内側で

また
新しい感情や

記憶が動き出す

創り手が

込めたものと

受け手の

内側にあるものが
重なったとき

そのあいだに

「美」が立ち上がる

だから

芸術の本質は

完成された作品だけに
あるのではない

作品と人

人と世界が
触れ合うところに

生まれていく

作品が放つエネルギーとは何か――心が動く理由――

自分の内側に触れ

それを
外へと表現する

そのとき

作品には

創り手の

内側にあるものが
映し出される

触れてきたもの

感じてきたもの

生きてきた時間

それらは

色や音

言葉やかたちの中に

少しずつ
姿を変えて

残っていく

同じものを描いても

同じ言葉を使っても

そこに現れるものが
人によって違うのは

それぞれが

違う時間を
生きてきたから

ここでいう
作品の「エネルギー」とは

そうして

作品の中に残った

創り手の感覚や
経験

その人が見てきた世界の
気配のようなもの

受け手は

作品に触れたとき

そこに残る
創り手の気配と

自分の

内側にあるものとを
重ね合わせる

ある音に

自分の記憶が
呼び起こされたり

ある言葉に

言えなかった感情を
見つけたりする

そうして

作品と
受け手の内側が

触れたとき

心が動く

だから

作品は
ただの「物」ではない

そこには

それを生み出した
人の気配がある

創り手の内側から
生まれたものが

作品という

形になり

それに触れた
誰かの内側を

また動かしていく

その循環の中に

芸術はある

見てもらえない不安も

届かないかもしれない
怖さもある

それでも

表現せずには
いられないことがある

自分の内側に

あるものを

外の世界へ
差し出したいという衝動

そのとき

まだ作品になる前から

表現は
動き始めている

内側に

生まれたものが

音や言葉

色やかたちとなって
外へと現れ

それに触れた
誰かの内側を

また動かしていく

創り手から
作品へ

作品から
受け手へ

そして

受け手の内側に
新しい動きが生まれる

芸術とは

完成された作品だけを
指すのではなく

人と世界のあいだを
行き来する

心の動き

そのものなのかもしれない

Visual Direction & Words

Atelier soe

目次